福島第一原子力発電所事故の放射線影響に関するQ&A
福島第一原子力発電所事故の放射線影響に関するQ&A
日本放射線影響学会のQ&Aサイトや各所での説明の中でいくつかの質問をいただいています。ここでは、特に茨城県とその周辺の皆様から寄せられたご質問に関する放射線生物学の立場からの回答を紹介いたします。詳しいQ&Aは「日本放射線影響学会」のQ&Aサイトを参照下さい。
URL: http://jrrs.kenkyuukai.jp/
なお、以下の回答は、原発事故が現状より悪くならないことを前提としております。状況が変わった時は、できるだけ迅速に対応いたしますが、時間差が生じます。また、科学的根拠に基づく説明に留意しておりますが、まだ推敲が足りない部分もあり、今後のデータ等に基づいて改訂してゆきます。参照される時は最新版をご確認下さいますと幸いです。
なお、年表示がない項目ごとの改訂日は、2011年の改訂日を示しています。(今は:2014年8月25日版)
日本放射線影響学会Q&Aグループによる冊子「本当のところを教えて!放射線のリスク」を作成しました。この冊子は、学校の理科担当の先生や、役場などで放射線対策にあたる方に読んでいただけると幸いです。ご希望の方には無料配布していますので、お問い合わせ下さい(2015年 医療科学社より出版)。
解説
内部被ばくの摂取経路
放射性物質を体内に取り込む経路は、経口、吸入、皮膚吸収の3経路です。水に不溶(難溶性)の化合物を除き、いずれの場合も血流に入って全身に回り、元素や化合物によっては特定の臓器に長く沈着する場合があります。例えば、ヨウ素131は甲状腺に、ストロンチウムは骨に沈着しますが、セシウム137は全身に均等分布(組織の割合からすると、筋肉や結合組織が相対的に多くなりますが)します。なお、いずれの摂取経路でも次第に体外に排泄されますので、継続的な摂取がなければ体内の放射性物質は次第に減少してゆきます。「物理的半減期」が数十年、数百年という物質でも、多くの場合、体内の量は数週間から数ヶ月で半分になる場合がほとんどです(今話題の放射性物質のうち、ストロンチウムは例外的に骨に長期間沈着し続けます)。
ただし、水に不溶(難溶性)の化合物を吸入摂取した場合は、一端、肺に沈着してしまうとなかなか排泄されません。難溶性の放射性物質にはプルトニウム化合物がありますが、非常に重い物質なので、成層圏まで届くくらいの大爆発にでもならない限り、茨城県まで届く可能性は非常に低いです。また、プルトニウムの場合は、放射線よりも化学物質としての毒性の方が問題になります。
一般には、同じ放射能(ベクレル)でも経口摂取の方が吸入摂取よりも被ばく線量(シーベルト)が高くなります(化学形や元素によって逆の場合もありますのでご注意下さい)。
放射線による健康障害の現れ方
放射線被ばくによる健康障害には、早期に現れる「急性障害」と長期間たってから発症する「晩発障害(晩発影響)」があります。急性障害の多くは放射線によって組織の細胞が死ぬことが原因となっています。細胞が死にいたる時間は、被ばく線量や細胞の種類によって異なっており、数時間以内から数週間までさまざまです。そのため、急性障害といっても、数日〜数ヶ月かけて症状が現れるものが多くあります。
急性障害の主なものとして、脱毛、皮膚の障害、不妊、リンパ球減少、死亡などが知られていますが、いずれも被ばく線量が低い場合(急性被ばくで数百ミリシーベルト以下)には現れません。ちなみに、ヒトの半致死線量(何も医療行為をしなければ半数の人が数ヶ月以内(多くは1か月以内)に死亡する線量)は、急性被ばくのシーベルト換算で全身に約4シーベルト(4000ミリシーベルト)とされています。この時の放射線エネルギーは、ガンマ線の場合で、熱に換算すると体温を0.001℃上昇させる程度しかありません。
晩発障害では、主に白内障と発がんが知られています。放射線被ばくによる白内障(老年性の白内障ではありません)は、ある線量以上の被ばく(急性被ばくで数千ミリシーベルト以上)でないと発症しないとされています。一方、発がんは、1000(文献により、250、500というのもあります)ミリシーベルト以上の被ばくを受けた集団では明らかに発症頻度が上昇します。ただし、放射線に被ばくしていなくても、ある頻度で「がん」を発症するため、100ミリシーベルト以下の被ばくでは本当に発がん頻度が上昇するかどうかは明らかになっていません(低線量被ばくによるがん発症の有無はこれからきちんと研究するべき課題の一つです)。そのため、放射線の安全管理では「わずかの被ばく線量でも発がん頻度が上昇する」と仮定して被ばく線量の制限値を規定しています。
放射線被ばくの単位:シーベルトについて
そもそも「シーベルト(Sv)」という単位は、人体への影響を考慮して換算する値であり、単なる物理的な放射線の量ではありません。物理的な放射線の量を表す単位は、エネルギーに基づいたグレイ(Gy)という単位です。ところが、グレイで放射線の人体影響を考えようとすると、放射線の種類や、対象とする影響、さらには年齢などによって結果が違うので、訳がわからないことになります。そこで、あらかじめ人体影響の違いを見積もって(致死がんになるリスクを指標に)被ばく量を表すようにしたのがシーベルトです。内部被ばくの場合は、摂取したベクレルからシーベルトを計算しますが、シーベルトに換算する段階で、子供の被ばくは増えるように換算されます。つまり、内部被ばくのシーベルトには、年齢などによるリスクの違いがある程度加味されているのです。例えば、ヨウ素131の吸入摂取による甲状腺被ばくの場合、ベクレルからシーベルトへの換算では、同じベクレルの摂取でも、3か月の幼児は成人の14.5倍(化学形によっては8倍)の線量になるように計算されます。セシウム137の吸入摂取による全身被ばくでは、幼児は成人の2.8倍の線量と算出されます。なお、外部被ばくについては、グレイで求められる放射線量に、放射線の種類や被ばく形態に基づく換算係数を掛けてシーベルトにします(こちらには年齢補正は入っていません)。ガンマ線の場合は、1グレイはほぼ1シーベルトです。ちなみに、ベクレルから求められる全身の内部被ばく(シーベルト)の値は、70歳までに被ばくする推定量(大人は50年間)を示しています。
注:以下のQ&Aにおいて、継続的摂取の場合の内部被ばく評価では、計算を簡潔にするために「摂取量×日数」の単純積算を元にしています。しかし、実際の体内では、濃度があるところで平衡に達します(継続摂取量に応じて、ある体内濃度以上にはなりません)。そのため、お示ししている被ばく量が、実際よりも過大評価になっている(つまり実際には、お示しした値よりも少ない被ばくになる)箇所があります。該当箇所には(注X)とお示しします。
なお、従来から国内で規定されている「一般公衆の被ばく限度(1ミリシーベルト)」には、自然放射線被ばく(日本の平均は約1.5ミリシーベルト:最新報告では2.09ミリシーベルト)と医療被ばくは含まれません。
(4/22修正、5/27追記、5/28追記・校正、6/9校正、6/10追記、6/13追記、6/22追記、7/11追記、7/16校正、7/25修正:計算間違い修正、粒子状ヨウ素の吸入で0.32÷0.022=14.5です。8/26校正、9/28校正、9/30誤植修正、11/21校正、2012/2/18補足、7/2体裁校正・追記)
Q:茨城県内に住んでいます。雨に濡れても健康には問題ないといわれていますが、雨の降る屋外で子供にスポーツなどをさせるのが心配です。本当に安全なのでしょうか。
A:私たちの測定では、茨城県水戸市に降った雨のヨウ素131の濃度は、最も濃かった時(2011年3月23日)が約5000ベクレル/kgで、3月末では約500ベクレル/kg程度になっています(5/28注:5月の雨はヨウ素131は不検出です)。雨の中での被ばく線量の評価は難しいのですが、仮に1000ベクレル/kgの濃度のヨウ素131が含まれる雨の中で1時間スポーツをする場合を考えてみます。ここでは、成人よりも被ばく線量が大きくなる子供(1〜4才の幼児)を想定します。子供のいる面積を900平方cm(30cm×30cm)とし、そこに毎時50mmの雨が降っているとします(かなりの土砂降りです)。そこで1時間プレーした時に降ってきた雨4.5L(900×5÷1000)を全て飲んだ子供(幼児)の甲状腺等価線量(甲状腺の内部被ばく線量)は、1000(Bq)×4.5(L)×1.5/1000(mSv/Bq)=6.8ミリシーベルトとなります。実際には、雨水を大量に飲むことはありませんので、これよりはるかに小さい値になります。仮に20ミリリットルの雨を飲んだなら、甲状腺の被ばくは0.03ミリシーベルト(=30マイクロシーベルト)ですが、実際はこんなに飲むこともないでしょう。さらに、外部被ばくについて考えると、同じく1000ベクレル/kgの濃度でヨウ素131が含まれる水中にドップリ浸かっているとしても0.1マイクロシーベルト毎時(マイクロシーベルト/h)以下の線量率となりますので、ほとんど問題になりません。「発がん」自体は放射線を浴びなくても起きうることなので、「絶対に影響が出ない」とは言い切れないのですが、科学的見地から、上記のような極端な仮定でも茨城県内の雨による放射線被ばくが甲状腺がんの原因となることは考えられません。
風邪をひかないためには寒い日には雨に濡れないようにした方が良いですが。
2011/7/2注:2011年6月以降の雨は、放射性ヨウ素、放射性セシウムともほぼ不検出(検出される場合もごくわずか)が続いていますので、現状が終息に向かう限り、雨に関してはご心配におよびません。
(5/28追記、6/9校正、7/2追記、7/18校正、2012/3/15に年を追記)
Q:食材、水道水を、長期に複合化して摂取する場合、乳幼児に与える健康への影響をどのように考えればよいのでしょうか。またどのような予防措置があるのでしょうか。
A:暫定基準値(2011年度)は、飲食物をいくつかのグループに分け、それらを全て基準値のレベルで毎日継続的に摂取し続けた時に、1年間の摂取による総線量(70歳まで:大人は50年間:の被ばく)が被ばく限度(ヨウ素131では甲状腺の被ばく量が50ミリシーベルト、セシウム137では全身の被ばく量が5ミリシーベルト)にならないような値に設定されています。つまり、もともと複合されることを前提に設定されているので、それぞれが暫定基準値以下であれば限度を超えることはありませんし、万一、ひとつが基準を超えていても、それが大幅な超過でなければ総被ばく量が大幅に増えることもありません。しかも、暫定基準値の食品を長期にわたって食べ続けるという状況は現状ではないはずです。予防措置については、暫定基準値以下(もちろん、可能な限り低いに越したことはありません)の水や食材を使用する、基準値を超えている飲食物を口にせざるを得ない状況になってしまった場合にはできるだけ少ない回数にする、ということになります。
12/28注:現在、新たな基準値が検討されています。この基準値案では、食品の分け方を変更し、全身の被ばくを年間摂取で1ミリシーベルト未満にするということになっています。
2012/4/9注:2012年4月1日から新基準(年間摂取で1ミリシーベルト未満とする)が施行されています。計算方法に若干の違いはあるものの、数値以外の基本的な考え方は同じです。
(5/17修正、5/20補足、5/21修正、6/6校正、7/16追記、7/18校正、9/30校正、11/8校正、12/28追記、2012/4/9追記)
Q:水戸市は福島第一原発からの距離125km程度ですが、放射線の影響をどのようにとらえればよいのでしょうか。
A:現状では科学的に影響は出ないとお考え下さい。100ミリシーベルト以下の「低線量の放射線被ばく」で問題になるのは「発がん」ですが、余分な放射線に被ばくしなくても約半数の方は生涯で「がん」になり、約3分の1の方は「がん」で死にます。被ばくしなくてもある頻度で「がん」を発症し、死亡するために、「絶対にがんにならない」と言い切ることはできません。そのことが、公式な回答が「健康には影響がないレベル」と歯切れが悪くなるひとつの理由です。放射線防護の基準策定に使われている研究データによると、仮にある集団が10ミリシーベルトを余分に急性被ばくした集団の「がん」死亡頻度(正確には「致死がんの発生確率」)の上昇は約0.15%と見積もられています(注)。その一方で、「がん」発症・死亡頻度は、個人差や地域差、生活習慣の差から数%の幅で変動します。つまり、各種の要因で5%の自然変動幅があるとすると、がん死亡頻度は余分な放射線被ばくをしていなくても約30%から約35%の間で自然に変動することになります。そのため、10ミリシーベルトを被ばくしたある集団で平均33%のがん死亡頻度が平均33.2%になったとしても、自然の変動の範囲内にあり、それが放射線の影響であるとは言えませんし、そうでないとも言えません。いずれにしても、茨城県内で福島原発事故による総被ばく量が1ミリシーベルトにも達しない現在の状況下で、将来にわたって影響が出るということはほとんど考えられません。
注:ICRPでは0.5%/100mSv(=0.05%/10mSV)になりますが、原爆被爆者のコホート寿命調査集団(LSS)の最新データLSS Report 13(Radiat. Res. 160:381-407, 2003)によれば、がん死亡の過剰相対リスクは 0.47/1Sv(直線を仮定すれば自然発生の約30%×0.047=1.5%/100mSvの増加)となっています。一見矛盾しているようですが、この2つの違いについては、LSSが急性被ばくによる全ての要因を含めたがん死亡リスクを考えているのに対し、ICRPは放射線被ばくが原因となったがん死亡リスクのみに線量率効果(DDREF=2)を合わせて見ている点にあるようです。ここでは、LSSをもとに約0.15%/10mSvの増加としています。
(6/20追記、11/8校正、2013.2.15補足修正)
Q:水戸市内の家庭菜園で葉物野菜を作っていますが、食べても大丈夫でしょうか。また、土を交換すれば放射能は除けるのでしょうか。
現段階で茨城県内の葉物野菜は暫定基準値(2011年)を下回っています。従って、庭の家庭菜園の野菜に限ってひどく汚染されているということは考えにくいので(ベランダに置いて水道水をやっている場合はなおさらです)、食べて健康影響が出るとは考えられませんし、現状が続く限り今後も作り続けて問題ありません。より安心を求めるのであれば、収穫後に良く洗うことを心がけて下さい。野菜の種類や汚染状況によって違いはありますが、葉や茎のくぼみや根元などを中心に、流水で丁寧に洗えば、放射性物質は大幅に減ります。どうしても心配であれば、土を交換することで放射性物質の大半を取り除くことは可能です。通常、降下物は土の表層から数cm程度の範囲にとどまりますので、耕す前であれば、表層から1〜3cm程度の土壌を除いて、汚染のない新しい土に交換すれば十分かと思います。ただ、繰り返しになりますが、これまでの空間放射線量率の推移や、公表されている放射性降下物の量から判断して、土壌の交換を無理して行う必要はありません。
なお、5/27に国から農作物等へのセシウム吸収率予測データが一部公表されました。文献が少なく、実験方法もバラバラであるためにかなり大雑把な値ですが、茨城県内の土壌汚染の濃度(茨城県HPで見ることができます)を参考に、吸収率を考慮されると良いと思います。
補足:実際の作物を調べた結果から、土壌から作物への移行係数は当初公表よりも低い(おおよそ1%以下である)ことがわかってきています(原因不明の例外もあるようです)。粘土質がそれなりにある土壌では、根からの吸い上げはほとんど無いというのが現状です。
(4/14掲載、4/18修正、5/17追記、5/21修正、5/24修正、5/28追記、7/11追記、9/28校正、11/8追記、12/28追記、2012/3/15に年を追記)
Q:水戸市内に住んでいますが、乳幼児の布団を外に干しても大丈夫でしょうか。
現在、福島原発から新たな放射性物質の大気放出は起きていませんので、水戸市内の放射線レベルは減少傾向にあります。土壌には、これまでに(ほとんどが2011年3月に)降下した原発事故由来の放射性物質が表層(ほとんどが深さ数ミリまでの範囲)にとどまっており、我々が茨城大学水戸キャンパス構内の表層(深さ3-5ミリまで)の土をかき集めて分析した結果では、2011年4月16日時点でヨウ素131が野菜の暫定基準値レベル(2000ベクレル/kg)、放射性セシウム(セシウム134とセシウム137)が野菜の暫定基準値(500ベクレル/kg)の3倍〜5倍程度含まれているようです。なお、数cmよりも深い土はほとんど汚染されていませんでした。
(4/22注:4/21の採取・測定では、ヨウ素131は半減期に従って約2/3に減っています。セシウムは変わっていません)
(5/13注:5/13の採取・測定では、ヨウ素131は約1/10に減っています。セシウムは雨で流れてわずかに減っています)
(6/10、7/14注:6/7、7/7の採取・測定では、ヨウ素131は不検出、セシウムはほとんど変化なしでした)
(11/22注:9月-10月の台風シーズン以後は、ヨウ素131は不検出、セシウムも表土が流れて1割程度減っています)
風が吹けば表面の土埃が舞い上がる可能性はあるわけですが、そもそも野菜の暫定基準値は、毎日食べることを前提として被ばくを制限するように設定されており、土埃を毎日何十グラムも食べたり吸い込んだりすることはないかと思います。また、乳幼児で問題になるヨウ素では、吸入(呼吸)による体内取り込みは飲食物からの取り込みよりも効率が悪いため、吸入による体内被ばく線量は、飲食物からの場合よりも低くなります。従いまして、現在の水戸市内で幼児の布団を外に干すことは全く問題ありません。もちろん、洗濯物を外に干すことも全く問題ありません。気になるようでしたら、風の弱い日(土埃がほとんど舞い上がらないので)を選んで干し、室内に取り込む前に布団の表面を良く払って下さい。(4/18掲載、4/21修正、4/22追記、5/13追記、5/17修正、6/10追記、7/14追記、11/22追記、2012/3/15に年を追記)
Q:3歳の子供がいます。子供は大人より影響を受けやすいこと、大人よりも地面に近いところで生活をしていることを考えると、幼稚園の園庭での運動や砂場遊びを不安に思いますが、そのまま遊ばせていて大丈夫でしょうか?問題がある場合は、改善することはできますか?
我々の測定では、2011年4月21日現在、空間線量率が0.21マイクロシーベルト毎時である茨城大学水戸キャンパス内の地表の放射線量率は0.32マイクロシーベルト毎時です(2011年11月10日の測定では、1mで0.17に対し、地表5cmは0.24でした)。表層の土のセシウムは野菜の暫定基準値より高いレベルですが、大量に食べたり吸い込んだりしない限り、土からの内部被ばくはごくわずかです。従いまして、砂遊びによる被ばく線量は「地表の線量率×時間」で計算できます。仮に地表が現在の2倍の0.6マイクロシーベルト毎時であるとし(4月中旬はこのレベルでした)、毎日8時間地面に転がることを1年間続けても総被ばく線量は「0.6×8時間×365日=1720マイクロシーベルト」です。これは関西の1年間の自然放射線量と同じ被ばく量が上乗せされる(簡単に言えば1年間で2年分の放射線を浴びる)レベルということになり、この程度で健康影響が出るとは考えられません。どうしても心配であれば、地表から数センチメートルの深さまでの土(砂)を除去するという対策がありますが、現在の水戸でその必要はありません。毎日お子様が砂を大量に(何十グラムも)食べるようなことでもない限り、砂場遊びや外遊びを避けるべき科学的理由は何もありません。むしろ外で遊ばせないことのストレスの方がお子様の成長に良くないと思います。もちろん、ご心配はお察しいたしますので、遊んだあとの手洗いをきちんとする習慣を心がけて下さい。なお、公園などで水道が近くになくて心配な場合は、ウエットティッシュを持参されると良いと思います。
(4/21掲載、5/6修正、6/2修正、9/28追記、11/22追記、2012/3/15に年を追記)
Q:内部被ばくも含めた「積算の総被ばく線量」はどうすれば概算できますか。
一般に公表されている各地の放射線量率には、食物や呼吸を通して取り込んでいる放射性物質からの被ばく(内部被ばく)は含まれておりません。これは、内部被ばくの値が直接測定できないことや、対象者の年齢、食物の放射能濃度や摂取量、室内・外にどのくらいの時間いるかなど、個人の生活スタイルによって大きく変化するために一律に示すことができないことに加え、何よりも、考慮しなければならないほどの内部被ばくの増加が予想されないからです。食物に関しては、暫定基準値(2011年現在)を超える食品を摂取することはないはずですし、水道水の汚染も原発にごく近い地域以外は問題ありませんので、茨城県に限らず今回の事故による内部被ばくが、年間被ばく量の大幅な増加にはつながることは一般には考えられません。ですから、水戸周辺の内部被ばく線量は、ほぼ通常のレベル(年間で0.4ミリシーベルト程度*)であると考えられます。なお、空間の線量率には、そこに降下した放射性物質の量が反映されているので、仮にわずかに汚染された飲食物を継続的に摂取して内部被ばくが増えたとしても、その値が外部被ばくの増加割合を超えることはないはずです。
自然の放射線も含めた積算被ばく線量を算出するには(あくまで概算です)、「空気中の放射線量率」×「時間」(実際には、線量率の経時変化を積分しないと正確な値にはなりません)に、一般的な内部被ばく線量を加えるということになります。なお、総被ばく線量に合算する値としては、日本国内での内部被ばくの一般値(年間0.4ミリシーベルト程度*)と、日本国内でのラドンによる被ばく線量(年間0.4ミリシーベルト程度*)を、それぞれ調べたい期間の割合で算出して用いればよいということになります。
[計算例]:屋外が0.20マイクロシーベルト毎時の場所で6か月暮らす場合(上記説明のとおり、これは概算です)
現状では、屋内は屋外の半分程度の線量率になりますので、1日のうち、8時間を屋外、16時間を屋内とします
外部被ばく(屋外分):0.20マイクロシーベルト毎時 × 8時間 × 182日 = 291マイクロシーベルト
外部被ばく(屋内分):0.10マイクロシーベルト毎時 × 16時間 × 182日 = 291 マイクロシーベルト
外部被ばくの合計は 291 + 291 = 582(約0.58ミリシーベルト)
内部被ばくとラドンの被ばく(上記)を加えると、0.58 + (0.4 + 0.4) ×(6/12)= 0.98ミリシーベルトとなり、
6か月の総被ばく線量は、0.98ミリシーベルトということになります。
この場所で1年間継続して暮らせば、その倍の1.96ミリシーベルトになります。
*日本の年間の内部被ばく線量数値は、(財)原子力安全研究協会「生活環境放射線」国民線量の算定(1992)からお借りしています。(追記も参照下さい)
とは言え、「内部被ばくが全く上がらないはずはない」という方のために、積算の外部被ばくと同じ割合で内部被ばくの上昇があると仮定して再計算してみます。
上の例では、外部被ばく積算は通常時(6か月で270マイクロシーベルト程度)の約2.15倍となっていますので、
この割合を内部被ばくにも上乗せして再計算すると、下記のようになります。
0.58 + (0.4 × 2.15 + 0.4) ×(6/12) = 1.21ミリシーベルト となり、
6か月の総被ばく線量は、1.21ミリシーベルト・・・・大幅には変わりませんね。
これですと、ほぼ世界平均レベル(1年間で2.4ミリシーベルト)です。
(2012/7/3追記)
2011年末に「新版 生活放射線」(国民線量の算定)が出ました。それによると、食品中の天然ポロニウム210の詳細分析ができるようになった結果、その寄与分が1992年の算定では過小評価であったことがわかり、自然の食品からの内部被ばくが0.58ミリシーベルト増えて、年間0.98ミリシーベルトとなっています(年間の総被ばく量は2.09ミリシーベルトとなっています)。最新データに合わせる場合には、上記および以降のQに記載した「年間総被ばく線量」にそれぞれ0.58を加えていただくことになります。なお、この増加分は天然ポロニウム210(および鉛210)からの被ばくの再評価によるものですので、今回の原発事故による過剰被ばく量自体はこれまでに記載した結果と変わりません。そのため、当面は、これまでの経緯を残すために、数値(計算式)の書き換えはしないこととします。
(4/27掲載、4/29追記・修正、5/11修正、6/2校正、2012/7/3校正・追記)
Q:水戸での外部被ばくの積算線量は、事故以降57日間で118マイクロシーベルトということで、1年間で約0.75 ミリシーベルト(平常より35%程度の増)と推定できそうですが、全体の被ばく線量はどう考えればよいのでしょうか。また、幼児に対する影響はどのようなものでしょうか。
現状の関東では、年齢に関係なく、今回の被ばくによる直接的な健康影響が出ることは考えられません。あるとすれば、心理的な面から来る影響のみです。
上の質問と同様の式で、田内の実測積算線量に基づく水戸での総被ばく線量を試算をしますと、外部被ばくの推定「0.75ミリシーベルト(計算式:118マイクロシーベルト ÷ 57日 × 365日 =0.75ミリシーベルト)」に、内部被ばく(外部被ばくと同じく平常の35%増として)「0.4ミリシーベルト×1.35」を加え、さらにラドンという自然放射性物質による被ばく(これは変化なしです)「0.4ミリシーベルト」を加えると、合計で約1.69ミリシーベルトとなります。
これには、自然の被ばくである1.4ミリシーベルトが含まれますので、原発事故に関連する増加分は、
1.69 - 1.4 = 0.29となり、およそ0.3ミリシーベルトと試算できます。この値は、 健康には何ら問題がない値です。 ちなみに日本国内には、自然放射線量が高い地域もあり、そこでの年間被ばく線量がちょうど1.7ミリシーベルト程度になります。
なお、特に内部被ばく線量は、個人の生活スタイル(食事や生活習慣など)によって変動しますし、外部被ばく線量も屋外・屋内に滞在する時間などで変わりますので、皆様が一様に試算どおりの被ばくということはありません(あくまで試算です)。あらかじめご承知おき下さい。
【補足説明】この試算における内部被ばくの上昇分(0.4×0.35=0.14ミリシーベルト)は、セシウム137であれば約1万ベクレルの経口摂取に相当します。
*2012/3/19注:実際の1年間の実測に基づく推計は最初のページにあります。
従来から一般公衆の安全基準として用いられていた「年間1ミリシーベルト」は、自然被ばくと医療被ばくを除いた値としての基準で、年齢にかかわらず同じです。実際には、子供や幼児であっても、100ミリシーベルトよりも低い被ばくで、「発がん」が増えたという確たるデータはありません。ただし、逆に、増えないという証明もできません。その理由は、先のQ&Aでも述べたとおり、 低線量の被ばくで問題になる「発がん」は、もともと被ばくしなくても起きる可能性があり、その頻度は、ある幅で自然に変動するからです。 いずれにしまして、今回の事故がこのまま終息に向かえば、関東における過剰の被ばくは年間1ミリシーベルトに満たないことが予想され(ただし、茨城県北部など空間線量率がやや高い場所では若干超える可能性がありますが、その場合でも)、直接の健康影響が出ることは科学的見地からは考えられません。また、これまでの科学的データからは、たとえ超過分が年間で数ミリシーベルト〜数十ミリシーベルトになったとしても、明らかな健康影響(放射線被ばくによる発がん頻度の上昇)が出ることは考えられません。
(5/9掲載、5/10追記、5/11追記・修正、5/12追記、5/21追記、6/2校正、2012/3/19注追記)
Q:内部被ばくの年間見積が、外部被ばくの増加割合からの推定というのはどういう理由でしょうか。
例えば、チェルノブイリ事故に対する「原子力放射線に関する国連科学委員会(UNSCEAR)」の報告*によりますと、ベラルーシでセシウム137の土壌への降下量が37〜185キロベクレル/平方メートルであった地域において、1986年(事故の年)の年間被ばく線量推定の中央値は、外部被ばく1.79ミリシーベルト、内部被ばく0.38ミリシーベルトで、総計2.17ミリシーベルトとなっています。それよりもセシウム137の降下量が多い185〜555キロベクレル/平方メートルであった地域でも、1986年の年間被ばく線量推定の中央値は、外部被ばく6.65ミリシーベルト、内部被ばく2.25ミリシーベルトで、総計8.90ミリシーベルトとなっています。他の地域を見ても、内部被ばく線量の推定値は、外部被ばく線量のそれと比べ、一部の地域でほぼ同じ、大半の地域では低くなる傾向があります。従いまして、一般的な生活に関しては、外部被ばくの増加と同じと仮定した上記の試算が過小評価にはなってはいないと考えています(もちろん、個人の生活習慣によって、あてはまらない場合はあり得ます。ご了承下さい)。
*Sources and Effects of Ionizing Radiation: Report to the General Assembly with Scientific Annexes, UNSCEAR 2008
参考までに、茨城県産品を毎日食べている田内家の2011年5月下旬の夕食(水戸市内のスーパーで購入した、いずれも茨城県産の、米、白菜、原木しいたけ、にんじん、もやし、豚肉、水道水を使用)に含まれる放射性物質を分析してみましたが、一食(約400g)あたり、ヨウ素131は不検出、セシウム134、セシウム137ともに 0.5ベクレル以下でした。
このことから、現在販売されている食材・水道水で調理した料理に放射性物質はほとんど含まれてないと言えます。仮に、上記と同じものを3食・1年間食べ続けた時の内部被ばくは、約18マイクロシーベルト(幼児で約30マイクロシーベルト)と概算されます(注X)。3月に降下してきたヨウ素131の吸入摂取による被ばくを多めに見積もっても、原発事故による過剰な内部被ばくは、成人で上記Qでの試算以下、幼児でも1ミリシーベルトに達しない(おそらく、多くても数百マイクロシーベルト程度)と考えられます。
(5/23掲載、5/24追記・修正、5/27追記、5/28校正、5/31数値を修正、計算を補正、6/4校正、6/9校正、6/10追記、2012/3/15に年を追記。2013/8/19校正)
Q:チェルノブイリ事故で発がんが増えた被ばく線量を教えて下さい。
チェルノブイリ事故に関しては、個人の被ばく量を推定して、その集団ごとに発がんの頻度を調べた研究がいくつかあります。「原子力放射線影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)」の報告書もその一つです。UNSCEAR報告書を含めたいくつかの論文データから、小児の甲状腺がんが明らかに増加しているのは、甲状腺の被ばく線量(主にヨウ素131による内部被ばく)が500ミリシーベルトを越えている場合で、250(一部論文では100)〜500ミリシーベルトは「グレーゾーン(上昇している可能性が高い線量域)」です。また、降下したセシウム137による内部被ばくや外部被ばくが寄与する、一般集団の発がん頻度に関しては、UNSCEARの調査報告書は「明らかな因果関係が認められない」と結論づけています。ただし、放射性セシウムによる内部被ばくによる健康影響(がん以外を含む)については、UNSCEAR報告書(因果関係なし)と現地医師の認識(被ばくが多いと影響が出ている)との間に乖離もあり、さらに調査・解析する必要性も残されています。
補足:ウクライナ政府によるチェルノブイリ事故25周年の報告書(Twenty-five Years after Chornobyl Accident: Safety for the Future, 2011)では、甲状腺がんが明らかに増えた地域の子ども(事故時に7才以下)の甲状腺被ばく線量(主に放射性ヨウ素による組織等価線量)の平均は140〜231ミリシーベルトとなっています。上記UNSCEARの報告と比べると、若干低い被ばく線量でも増加しているとも解釈できますが、おおよそ100ミリシーベルト前後の被ばく線量が、増加が見え始める境界であることに変わりはありません。ちなみに、チェルノブイリでの甲状腺がん増加には、普段の栄養素としてのヨウ素不足が被ばく線量以上に大きな要因として関わっていることが報告されています(Cardis E. et al. J. National Cancer Institute, 2005)。日本人の食生活では、普段から十分なヨウ素を摂取しているので、チェルノブイリとは被ばく線量でもヨウ素摂取でも状況が大きく違います。
(6/2掲載、6/3校正、7/16校正、9/14校正、2013/8/19補足追記)
Q:夏に茨城県内の屋外プールで泳ぐと健康に影響がありますか?
雨に放射性物質が含まれていたのは2011年4月までで、5月以降の茨城県の降雨には放射性物質はほとんど含まれていません。また、屋外プールには水道水を使うと思いますが、茨城県の水道水は放射性物質の不検出が続いています。実際に、茨城大学水戸キャンパスにあるプールの水を分析しましたが、原発事故由来の放射性物質(放射性ヨウ素や放射性セシウム)は全て不検出でした。外部被ばくについては、衣類によるしゃへい効果は全くないので、水着であっても服を着ていても何ら変わりませんし、むしろ、きれいな水の中に入れば、水によって放射線がしゃへいされ、外部被ばくは減ります。従いまして、放射線安全上は、茨城県内の屋外プールで泳いでも全く問題はありません。(6/17掲載)
Q:福島市内の住民の尿から放射性セシウムが微量ながら検出されたと聞きました。体内に微量の放射性セシウムがあると、どの程度の健康影響があるのでしょうか?
セシウムはカリウムと化学的に同属の元素で、性質が非常に良く似ています。従いまして、放射性セシウムは、体内では、必須のミネラルであるカリウムと同じ動きをして、全身に均等に分布します(見かけ上は、量の多い筋肉に集まっているように見えます)。
これまでの報道で、尿から放射性セシウムが検出された方の被ばく量は、今後新たに摂取しなければ、飯舘村近辺の方で100マイクロシーベルト以下とされています。福島市内の方では、全身で数十ベクレル程度の放射性セシウムと推測され、被ばく量は幼児で数マイクロシーベルト程度(成人ならば1マイクロシーベルト以下)と推定されますので、いずれの場合でも特に健康影響は表れないレベルです。
そもそも体内には、天然に存在する放射性カリウム(カリウム40)が大量にあります(成人男性で約4000ベクレルです)。もちろん、普段の食品中にも数ベクレル/kgから700ベクレル/kg程度までの濃度で天然のカリウム40が含まれています。そのカリウム40によって、私たちは年間で約180マイクロシーベルトの内部被ばくをしているのです。
放射性セシウム(セシウム134やセシウム137)とカリウム40は、ともに良く似た変化(ベータ壊変)に続いてガンマ線を出します。また、カリウム40は、放射性セシウムよりも強いガンマ線を出しています(ただし、同じベクレル数あたりの放出ガンマ線の量はセシウム137の約1/5です。そのため、同じベクレル数を摂取した時の被ばく量(シーベルト)は放射性セシウムの方が約2倍になります)。そのようなカリウム40が存在する体内に、カリウム40と性質が良く似た放射性セシウムを数ベクレル〜数十ベクレル取り込むということは、もともと体内にあったカリウム40が、数%程度増えるということと大差ありません。ですから、今回報告されている程度の体内の放射性セシウムによって何かの影響が出るということは,生物学的には考えられません。
(7/2掲載、7/4追記、8/29追記、11/21校正)
Q:基準値超えの放射能を含む牛肉が流通したようですが、万一、食べた場合に健康影響が出るのでしょうか?
基準値超えの食肉が流通してしまったことはたいへん残念です。
さて、この牛肉を、気付かずに食べてしまった時の被ばく量を算定してみましょう。今回の食肉の放射性セシウムによる汚染レベルの最大値は3,400ベクレル/kgと報道されているかと思います。この3,400ベクレル/kgのセシウム137で汚染された厚切りステーキ(200g)を食べてしまったとします。この場合、体内に取り込むセシウム137の量は、3,400 × 0.2 kg = 680ベクレルです。これをもとに内部被ばく量(実効線量)を計算します。成人のセシウム137の経口摂取の実効線量係数が0.013[マイクロシーベルト/ベクレル]なので、0.013 × 680 = 8.9マイクロシーベルトとなります。ちなみに、3か月の幼児が大人の半分の100gを食べたとして(あり得ない仮定ですが)、内部被ばく量は7.1マイクロシーベルトです。なお、現在の実情は、セシウム134とセシウム137が、ほぼ1:1の割合になっています。この条件で再計算すると、成人(200g食べたとき)で10.9マイクロシーベルト、乳児(100g食べたとき)で7.8マイクロシーベルトとなります。
このレベルの被ばくであれば、今後さらに継続して長期に摂取しない限り、将来の「がん」を含めて、被ばくによる健康影響があらわれるということは考えられません。もちろん、だからといって摂取して良いわけではありませんから、安全・安心のために、今後のよりきめ細かい出荷前検査をお願いしたいところです。
(7.12掲載、7/14校正、9/14追記、9/15一部修正)
Q:食べ物からの放射性セシウムによる内部被ばく(シーベルト)の計算方法を具体的に教えて下さい。
シーベルトは放射線被ばく量に基づく人間への危険度を表す量で、あくまで人を対象とする被ばく影響の指標です。さらに、シーベルトには、ある組織に限定して影響を見る場合と全身影響を見る場合、内部被ばくと外部被ばく、摂取状況による係数の違いなどがあり、同じシーベルトでも意味合い・計算方法が若干変わってきますので、目的にあった計算をすることが必要です。
さて、食べ物からの放射性セシウムによる内部被ばくの評価では、摂取したベクレルがわかればシーベルト(全身影響なので預託実効線量と呼ばれます)が計算できます。その計算式は、下記のようになります。
(内部被ばく量)=(摂取したベクレル数)×(実効線量換算係数)
「摂取したベクレル数」は、「放射能濃度」(ベクレル/kg、ベクレル/L)に「摂取量」(濃度に合わせてkgあるいはL)を掛けることで求められます。なお、経口摂取による放射性セシウムの実効線量換算係数(マイクロシーベルト/ベクレル)は表のとおりです。
(係数の出典:ICRP 1998)
ここで計算されるシーベルトは、実際には70歳まで(大人は50年間)の被ばく量を計算しています。それが「預託」と呼ばれる理由です。
例えば、上の質問で取り上げた「3,400ベクレル/kg(1,000gあたり3400ベクレル)の和牛ステーキを食べた場合」の被ばく量の計算ですが、全てがセシウム137のみとした場合には、下記になります。
成人(200g食べた時) 3,400 ×(200÷1,000)× 0.013 = 8.9 マイクロシーベルト
乳児(100g食べた時) 3,400 ×(100÷1,000)× 0.021 = 7.1 マイクロシーベルト
注:継続摂取の場合は、体内の濃度があるところで平衡に達しますので、毎日の摂取量を単純積算して得られた値は、実際の被ばくよりも大きな数値になります。あらかじめご承知おき下さい。
補足:2つ前のQ&Aで書かせていただきましたK-40の実効線量係数(経口摂取)は、成人で0.0062ですので、同じベクレルならば、被ばく量は放射性セシウムの約半分となります。
(9/15掲載、9/16補足、9/24修正、9/26校正、11/21補足追記)
Q 過去に日本全土へ放射性物質が降下した時期があると聞きました。福島原発事故で茨城県に降下した放射性物質の量はその頃と比べてどのようになっているのでしょうか。
ひたちなか市での観測値によると、今回の原発事故で2011年3月から4月の間に降下したセシウム137は、1平方メートルあたり約28,600ベクレルとなっています(注:その後、セシウム137とセシウム134の総量で約40,000ベクレル/平方メートルであることが公表されています。2012/7/24公表の再測定値では、約22,000ベクレル/平方メートルになっています)。5月以降の降下量はごくわずかですから、この期間の降下量が茨城県央部の土壌の汚染量(土壌への降下量)と考えられます。このセシウム137降下量は、1950年代から1960年代にかけて地上核実験が行われていた時期(十数年間)に日本全土(東京での測定)に降下したセシウム137の1平方メートルあたり総量よりも多い量です。つまり、茨城県には、核実験が行われていた十数年間分の放射性セシウム降下量を越える量が、その大半はたった約2週間という短期間のうちに降下したことになります。放射性ヨウ素にいたっては、1平方メートルあたり約21万ベクレルという、かつてない量が降下しましたが、半減期が約8日と短いために、現在では検出できないレベルとなっています。
一方、骨に沈着してしまうために注意が必要な放射性物質である、放射性ストロンチウム(ストロンチウム90やストロンチウム89など)は、今回の事故ではあまり放出されておらず、福島県内で検出された量でも、多くは1963年の1年間に東京に降下した量よりも少ない量となっています(注:9/30に文科省から福島県内の土壌ストロンチウム測定マップが公表されました。それによると、避難・警戒区域の外のストロンチウム濃度は、場所によりばらつきはあるものの、ストロンチウム90とストロンチウム89を足した量で、1963年のストロンチウム90の降下量と同じ程度か少ない量です)。ちなみに、今のところ茨城県内の土壌からは福島原発由来のストロンチウム90は不検出とされていますが、仮に、福島で検出されたのと同じ割合(セシウム137の約1/1000〜1/1500)で茨城県にも来ているとしても、1963年の降下量よりも一桁少なくなります。地上核実験の時期に子供であった50代前後の人々に明らかな健康影響が出ていないことから、今回の事故による放射性ストロンチウムの影響は出ないものと推測できます(注:横浜市内の屋上堆積物からストロンチウム90が検出されたとの報道がありました。この堆積物に含まれていたストロンチウムの放射性セシウムに対する比は約1/200〜1/500となっています。仮に、茨城県内土壌へのストロンチウム降下量がその比であったとしても、1963年よりも大幅に低いことに変わりありません)。
(12/3注:横浜で検出された「放射性ストロンチウム」の分析は簡易分析(3日程度でできる)によるものでした。その後、全く同じ試料について、公立の研究機関が精度の高い分析方法(1か月以上かかる厳密な方法)で再度分析した結果、横浜市が発表・報道した「放射性ストロンチウム」は、主に天然のベータ線放出物質を検出していたことがわかり、実際には放射性ストロンチウムはほとんど含まれていなかったことが明らかになっています(文科省2011/11/24公表資料)。従って、検出割合は、あったとしても福島県と同じ1/1,000程度と言えます。)
(2012/8/1注:7/24付で、昨年の降下物中のストロンチウム90濃度が公表されました。茨城県(ひたちなか市)は福島県以外では最大で、2011年3月に6ベクレル/平方メートル、2011年末までの合計では、約14ベクレル/平方メートルでした。この値は、同時期のセシウム137+134の降下量の合計 約22,000ベクレル/平方メートルの約1/1500となっており、福島での検出比と一致しています。)
つまり、茨城県での、これからの安全・安心のためには、かつてない量が降下した放射性セシウムによる地表汚染への対応を考えればよいということになります。(8/25掲載、9/14校正、9/28追記・校正、10/1追記、10/14追記、10/15校正、12/3追記、2012/3/7補足、2012/3/15に年を追記、2012/8/1追記)
Q:福島原発事故での土壌汚染とチェルノブイリ事故による居住制限地域の土壌汚染は中身が違うと聞きました。どのように違うのでしょうか。
2つの事故では原子炉の破壊具合が異なるため、飛散した放射性物質の種類と量(割合)は大きく違っています。チェルノブイリでは原子炉が完全に破壊され、内容物が爆発的に大気中へ飛散しました。一方、福島では原子炉格納容器そのものは何とか原形を留めましたので、内容物が直接大気に触れることはありませんでした。原子炉内で核分裂によってできる放射性物質は、それぞれ気化する温度が異なりますので、数百℃程度といった比較的低温で気化する物質(ヨウ素やセシウム)はどちらもほぼ同じような割合で大気中に放出されましたが、高温でないと気化しない物質(ストロンチウムやプルトニウムなど)はチェルノブイリの方がはるかに多く放出されています。放射性ストロンチウムやプルトニウムは、内部被ばくの生体影響が大きい放射性物質ですから、その量の違いは被ばく影響に大きな差を生じさせる可能性があり、単純に放射性セシウムによる汚染濃度だけでチェルノブイリと福島が同じだとは言えません。なお、田内も参加している日本放射線影響学会有志(Q&Aグループ)が、チェルノブイリ事故で移住の目安とされた濃度のセシウム137(1平方メートル当たり185キロベクレル)で汚染された土壌について、他の放射性物質の降下量がどのくらいになるかを試算して比較していますので、こちらを参照して下さい。
(2013/9/17掲載)
Q 放射線は遺伝子に傷をつけると聞きました。万一、その傷をうまく修復できなかった時は、高い確率で「がん」になってしまうのでしょうか。
ご質問のとおり、放射線は生物の設計図である遺伝子(DNA)に傷をつけます。その傷のほとんどが、細胞が持っている修復機能で直りますが、まれに失敗する時もあります。しかし、万一修復に失敗しても「がん」になるためには、さらにたくさんの悪い変化(それぞれは滅多に起きません)がいくつも積み重なる必要があります。
「がん」になるまでに必要な出来事をいくつか例示しますと、下記のようなものがあります。
(1) 修復に失敗した細胞は、通常ならば自ら死んで体内から消えますが、何らかの原因でそれがうまく機能しなかった時に「がん」への第1歩が踏み出されます。
(2)「がん」は細胞増殖の異常ですから、その細胞がどんどん増殖できる力を獲得する必要があります。
(3) 身体を作っている細胞には寿命があり、ある回数以上分裂(増殖)することはできなくなっています。がん細胞はいつまでも増え続けなければならいので、「がん」になるには細胞の寿命を乗り越えて、無限の命を獲得しなくてはなりません。
(4) 身体には異常な細胞を見つけ出して排除する免疫のしくみもありますが、「がん」が育つにはその監視からうまく逃れる必要があります。
上記以外にも分化状態が変わるなどの必要な出来事があり、それがほぼ全て揃った時に「がん」が発症するのです。しかも、「がん」の全てが命に関わるわけでもありません。
実は、普段の生活の中で、私たちの身体の遺伝子(DNA)には、たった1時間で何千個もの傷がついています。その主な原因は放射線ではなく、酸素呼吸で生じる活性酸素や太陽の紫外線などです。私たち日本人は、そんなにも多くの遺伝子の傷を受けながら(おそらく、たまに修復に失敗しているはずです)80年近く生きても、生涯に「がん」になる人は半分しかいないのですから、「(修復の失敗=がん)ではない」とご理解いただけるかと思います。
このことは、裏を返せば、「もし、被ばくによってわずかのリスクを受けたとしても、受けたリスクはその後の生活でキャンセルできるし、対応の選択を誤るとリスクを増強してしまうことだってありうる」ということにもなります。発がんリスクをキャンセルする(減らす)のに有効なのは、栄養バランスのとれた食事、適度な運動、規則正しい生活習慣、そしてストレスの少ない暮らしなどです。リスクを低く保つのに、喫煙(受動喫煙を含む)を避けることはいうまでもありません。(2012/3/7掲載)
Q:福島原発からの汚染水問題で注目されているトリチウムの生物影響について教えて下さい。
ご質問のトリチウム(三重水素)はベータ線を出す放射性物質で、もともと宇宙線の関与などで生成されて自然界に存在しています。自然界の地球環境中の平衡量は1.5×1018ベクレル程度と見積もられていますが、実は、そこに地上核実験などによって人工的に作られたトリチウムの残存分が、いまだに環境中に2×1019ベクレル近く追加されているのが現実です。
良いかどうかは別として、これと比べれば、今回の福島原発汚染水で問題になっているトリチウムの総量は桁違いに少ないのも事実です。しかし、濃度が高ければ影響が大きくなりますから、局所的な濃度には注意が必要です。なお、トリチウムのベータ線はエネルギーが弱くて透過性が低いので、考えなくてはならないのは内部被ばくです。これまでの研究から、数百ミリシーベルトを越えるような被ばくとなる高濃度のトリチウムを摂取すれば、他の放射性物質と同様にがんや寿命短縮をはじめとしたさまざまな影響が起きることが知られています。
トリチウムは、通常、環境中でHTO(水:H2O:の水素の一つがトリチウムになっている)となり、一部は生物の体内で有機物分子の水素と置き換わります(このトリチウムを「有機結合型トリチウム」と言います)。HTOの体内半減期が1〜2週間(文献により4〜18日)とされるのに対し、有機結合型トリチウムの体内半減期は40日程度(ごく一部はもっと長い場合がある)とされ、有機結合型トリチウムの方が体内半減期が長いのは事実ですが、他の放射性物質と比べて特別に長いわけではありませんし、「同位体置換反応」や「代謝」があるために、体内の特定の場所にとどまり続けるということもありませんから、生体濃縮(環境よりも生体内が濃くなること)は通常ありません。
体内に取り込まれれば、HTOでも有機結合型でも(それが、たとえ1分子であっても)、トリチウムからのベータ線が遺伝子DNAに損傷を与える可能性はあります。その一方で、もともと自然に存在していることから、常に体内に出入りしている放射性物質でもあります。結局のところ、トリチウムで問題になるのは、他の放射性物質や放射線と同じように、摂取量(水の場合は濃度)であるという事となり、濃度が十分低ければ生物学的に影響は見えないことになります。ちなみに、以前からのトリチウムの放出濃度限度である「1リットル当たり6万ベクレル」は、その濃度のトリチウムを含む水を1年間飲み続けた時に1mSvの被ばくが想定される濃度です。ですから、そのようなレベルの濃度では、生体や環境に影響が出るとは考えられません。ちなみに、経口で取り込んだ時のトリチウムの実効線量係数は、影響が大きい有機結合型が0.000042マイクロシーベルト/ベクレルで、この値はセシウム-137(3つ前のQ&Aに掲載)の約1/300です。
(2013/9/10掲載、2013/9/13校正)
Q:少しでも安心するためにできることは何ですか?
これまで述べたとおり、今の茨城県の状況で、何かを無理して行う必要はありませんが、より安心につなげたいのであれば、下記の事項があげられます。要点としては、現状では新たな大気への大量放出は起きていないこと(茨城県内の2011年5月以降の雨には、放射性物質はほとんど含まれていません)、放射性物質(特にセシウム)は、基本的に地表の数cmの土壌に吸着されて存在している(水にもほとんど溶けない)ことを踏まえればよいということです。土を大量に食べないことは言うまでもありません。
1.外出や外遊び後の手洗い、うがいを励行する。
2.室内の掃除をきちんとする(高集じん型の掃除機を使用されるとより効果的です。ゴミ捨て時は埃を吸
わないように注意しましょう)
3.乾燥した強風の日は窓を大きく開けない(室内に土埃を入れないため)。
4.放射線モニタリングデータを定期的に確認する(数値が大きく上昇しなければ、原発の状況は悪い方に
は向かってはいないということです)。
なお、暑い季節に長袖を着たりする必要はありません。現在最も多く存在している放射性セシウムはガンマ線を放出します。衣類ではガンマ線に対するしゃへい効果はほとんどありませんので、長袖であっても半袖であっても外部被ばくは変わりません。しかも、乾燥した強風の日(つまり土埃が舞う日)でない限り、地表の放射性セシウムはほとんど舞い上がりません。したがいまして、花粉症などの理由がなければマスクも不要です。どうしても心配であれば、外から帰ったら手や腕を洗い、うがいをするというのが最も効果的かつ健康的です。
発がんには、さまざまな要因が関与します。心理的ストレス(定量化は難しいのですが)が、発がん頻度上昇の一因であるという研究報告がいくつもあります。茨城県内へ降下した放射性物質による放射線被ばくが、発がんの直接原因となる可能性は非常に低いです。客観的に理解して、心配しすぎないことも大切です。
これからのために(食品について)
そもそも自然の放射性物質がある以上、「放射性物質ゼロ」という食品は存在しません。 生産者の方は大変ですが、可能な限り測定して情報を提供して下さい。一方で、 消費者の皆様は、 放射性物質が「ある・なし」ではなく、そのレベルに基づいて判断して下さい(測って表示しているということは、それだけきちんと品質管理しているということでもあります)。判断においては、過剰の放射性物質が存在することによる被ばくリスク(シーベルト)と、それを避けるための行動に伴うリスクを比較して、リスクが低い方(あるいは納得できる方)を選択することが大切だと思います。
(5/23掲載、5/24追記、5/25校正、6/9追記、6/10校正、6/17追記、6/29追記、8/25追記、9/28追記、12/28校正、2012/3/7校正、2012/3/15に年を追記、2013.3.21追記、9/13校正、2014.1.21追記)
ここで、がん死亡リスクについて考えましょう。
Eric. J. Hall著 「放射線科医のための放射線生物学」篠原出版 から一部データをお借りしています。
古いデータ(1970年代のアメリカの統計)なので、現在の頻度とは必ずしも一致しません。また、下記の計算はかなり大雑把な見積もりです。あらかじめご了解下さい。
・喫煙による肺がん死亡リスク(上記文献):タバコ1本あたり、1千万人に1.37人
・放射線被ばくによるがん死亡の過剰リスク(ICRPの値):10 ミリシーベルトあたり、1万人に5人
(上記は、先にも述べたとおり推定されたリスクで、実際に上昇するかどうかの確証はありません)
上記からリスクが等しい条件を探すと
放射線10 ミリシーベルトの被ばくによるがん死亡リスク
= タバコを3650本吸った時の肺がん死亡リスク
*注:以前に講演した先で配布した資料では比較データが古いままで不十分な点がありました。お詫びいたします。
大雑把に単純計算しますと、
タバコを毎日10本、1年間喫煙し続けた人は、
(10本 × 365日)= (3650本) = 10 mSvのリスク
つまり、毎日10本の喫煙を続けることで、年間10 ミリシーベルトの放射線を余分に被ばくしているのとほぼ同じ「がん死亡リスク」を背負うという見積もりになります。ただしタバコの害は蓄積します。
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